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石戸谷 博範

-Hironori Ishidoya-
人物近影

人物紹介
  • 個人会員(東京大学生産技術研究所平塚総合海洋実験場)
  • 博士(農学)
  • いのち輝く未来のために

      おだわら環境志民ネットワークが設立された当時、早川にある神奈川県水産技術センター相模湾試験場に勤めていました。そこでは定置網を取り上げて、学術的な面から少しでも小田原の漁業に役立てられるように研究を進めました。そして年に1回、鈴廣の社長でおだわら環境志民ネットワークの個人会員・顧問でもある鈴木博晶さんと一緒に海をテーマにしたイベントを開催していました。

     全国各地から人が集まり、定置網の見学会や、各セクションに分かれて講演会を実施するなど大々的なものでした。そこでは〝海・山・川の連環学″というかたちで、森や山が生み出す川の水が海を豊かにしていくシステムを話させていただいたこともあります。こういった場に、辻󠄀村会長さんはじめ、おだわら環境志民ネットワークの設立メンバーはほとんど関わっていました。やがて「ブリの森づくりプロジェクト」が立ち上がり、「環境志民フォーラム」を経て、おだわら環境志民ネットワークが形作られていきました。多様性溢れる豊かな海と森、水に恵まれ自然に抱かれた日本の原風景とも言える小田原から、環境の大切さを継続的に発信していくという目的で今に至るかと思います。

    小田原の海


     小田原の海の特徴として海が深いということが挙げられます。御幸の浜から船で10分も走れば水深が300~400メートルですから、すぐ近くに深い海があるというのは非常に有利で全国的にも珍しいです。

     漁業の面では、かつて小田原の海はブリの漁獲量で日本一でした。ブリで財を成した人たちが市政に携わるなど、小田原の歴史とも深い関係があります。今現在、早川漁港から真鶴半島までの間に、米神・石橋・根府川・江の浦、4つの定置網の漁場があります。最盛期にはそれぞれの漁場に150人ほどいた漁師さんも今では20人ほどです。漁師さんが減っているのは小田原に限らず全国的に右肩下がりで、機械化があったり、高度経済成長期で、人手が足りない陸上の産業へ転向する人なども多く、一概には言えませんが、以前ほど多くの人が働けるほどではないのは確かです。ただ数こそ減ってはいますが、深い水深を持つ地形と海流という人間には絶対に変えることができない要素で保たれ、自然に助けられていますので、小田原の海の豊かさという面では、すごいポテンシャルをいまだに持っていると思います。

    自然の"流れ"を止めるのはよくない



     残念なことに、おそらく今の小田原の人たちは御幸の浜に遊びに行きたいと思うことはほとんど無いと思います。かつて小田原の海辺は広い砂浜があり、ビーチパラソルがたくさん立つような一大海水浴場でした。それこそ波打ち際まで裸足では熱くて歩けないくらい広い砂浜でしたが、いまでは海から数十メートルしか砂がありませんし、そもそも“砂浜”ではなく“石ころ浜”になってしまっています。

     しかも、ここ50~60年くらいの短い時間に変化したことです。山や森から始まり川を伝って海に流れる土砂を飲料水や農業、工業用水などのために本来自然が行ってきた"流れ"をある程度人間の手で止めてしまっているのが原因です。もとに戻そうと一生懸命トラックで何往復もして何トンという砂を浜辺に運んでも、まったく追いついていませんから、24時間365日、1秒も休むことなく流れていた自然の力がどれだけのものなのかを図り知ることができます。
     今よりもっと農業が盛んだった江戸時代ではここまで自然環境に負荷をかけてはいませんでしたが、川が氾濫することはもちろん防がなければならないし、首都圏へも飲料水を供給する必要もあるという、経済活動との両立がいかに難しいかということを示しています。

    小田原の人々が一番知っている

     今でも和歌山や三重、高知などでブリはたくさん獲れています。資源としては豊富で、むしろ増加しているというデータもあります。ブリは沖合ではなく岸辺を泳ぐ魚です。センサーの塊のような魚なので、水質の変化には非常に敏感で、塩分の少ない甘い水を好みます。そこへくると酒匂川から豊富な水が流れ込んで、ブリにとって魅力的な海が小田原にありました。懐かしい過去になってしまった風景を取り戻すことができれば、必然とブリも戻ってくることでしょう。

     今後、技術の向上によって、極力環境に負荷をかけない、そこに設置されているんだけれども、より自然の営みに近い形で、治水や利水のシステムを構築し、自然とともに生活していくことが私たち人間のできるリカバリーだと思います。そしてそのニーズをもっとも感じているのが相模湾地域だとも思います。広大な河川流域を片方だけの知恵・・・・・・・・で使った事例が、目の前にあります。
     おだわら環境志民ネットワークは、さまざまな分野の方々が会員としていらっしゃるのが非常に良いと思います。山のてっぺんから川を伝い都市を通りながら海へとつながっていく、その流れの要所要所に詳しい志民の方が知恵を出し合えるのは素晴らしいと思っています。
     小田原の人の中には、生まれた時にはブリが大漁だったけれど、成人になるころには全然獲れないという、そのくらい短い期間で自然の変化を感じている方が多くいらっしゃると思います。その経験を伝えていきながら、次に何を考え、どう行動していくのかが大切だと考えます。