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伊豆川 哲也

-Tetsuya Izukawa-

冬みず田んぼについて


 一口に、里の自然といっても、そこに生息する生き物たちにとっては、住みやすかったり、住み難かったりします。例えば、田園地帯の夜に光るホタルはとても美しいです。ホタルが生息するには、川と田んぼだけではダメなんです。ホタルは光って求愛をしてるので、街灯や車のライトが照射される場所では、求愛相手を見つけられず、次の世代を残せません。昼間に成虫が身を隠せる林も必要です。冬になると、人はホタルのことなんてすっかり忘れてますが、虫は「夏になると湧く」のではなく、冬でも命をつないでるのです。ホタルは冬には、流れの緩やかな水田用水路や水田の水溜りにいて、幼虫で貝を食べながら生活してるのです。 流れの緩やかな水田の用水路や水田の水溜りには、ホタルの幼虫だけでなく、トンボの幼虫やドジョウやカエルなどの身近な里の生き物が冬眠してます。30年ほど前までは、冬でも水田の所々に水溜りが残っていました。そういうところで、ドジョウやカエルなどが冬眠していたのです。そころが、この30年間で、水田の圃場整備工事が普及し、大型機械が走行できるように排水性を向上させたので、冬に水溜りが残るような田んぼはほとんどなくなってしまいました。これでは、ホタルもカエルもドジョウも居なくなって当然です。田んぼは食糧生産の場ですし、農家さんはボランティアではないので、生産性向上は当然です。ホタルもカエルもドジョウなどの身近な里の生き物は、害虫でもないし、地域の里の風景に溶け込んでいる文化的存在でもあるので、もし100枚田んぼがあったら1枚ぐらいは身近な里の生き物も命をつなげる田んぼが近所にあるといいなあ~って思いませんか。そこで、稲作もかなり普通の農作業で出来て、里の生き物と共存できる、そんな農法の1つに、冬に水田に水を張る「冬みず田んぼ」があるので、実践してくれる農家さんと協力しながら環境のことを考えています。

どうしても自然が減ってしまうなかで


 小田原には、谷底の地形(湿地)を、そのまま田んぼにした谷戸の棚田が少し残っています。例えば小田原市沼代(ぬましろ)です。田んぼの歴史がわかる原風景です。江戸時代よりも以前の用水路が発達する前、山裾の湧き水が、谷の湿地にたまります。そこに稲を植えればお米が育ち、収穫できたのです。湧水は一年中枯れません、なので、稲刈り後も、田んぼには水たまりが残り、ホタルやドジョウ、カエルが越冬できます。そんな風景を、湧水の棚田以外でも再現できるのが「冬みず田んぼ」です。ただ、自分ひとりじゃ環境は変えられないので、ノウハウを広めて、普及させてたいです。


冬みず田んぼの営農メリットと適した田んぼ


 機械化のために、稲刈り後は春まで田んぼを完全に乾かすのが当たり前になってしまいました。ところが、江戸時代の農業技術書「会津農書(1684年、佐瀬与治右衛門)」には、生産能力を高める手法として冬みず田んぼが書かれてます。この書には、冬の間に、田に水を張ると、イトミミズやユスリカ(血を吸う蚊ではありません)などの小さな水生動物が増えて米の収穫量が増えると書かれています。これはイトミミズの糞などが有機肥料となるのです。今でいう有機農法です。戦後、化学肥料が普及したので、有機肥料を作る農家さんがほとんどいなくなってしまい、この技術は忘れ去られてしまいました。現在では、やはり機械化は避けられないので、現代版にアレンジが必要ですし、泥の質によって冬みず田んぼの向き不向きもあります。水はけの良い水田なら、冬みず田んぼをやってもトラクターやコンバインの走行に支障が出にくいのです。隣接する地主さんとのコミュニケーションも大切です。冬みず田んぼを行うと、畔漏れするので、隣の農家の田んぼも湿ってしまうのです。なので隣の農家さんにも理解を求めないといけない場合もあります。まずは雨水で出来る小さな水たまりからでもいいので、興味をもって貰えたらいいと思います。

冬みず田んぼを広めていく


 冬みず田んぼは、ただ冬に水を張るだけではなく、農家さんには経済メリットもなければ、普及も持続もしないので、この農法で作られたお米のPRや販路のサポートも必要です。他地域の冬みず田んぼのブランド米の事例では、佐渡島の朱鷺米や、兵庫県豊岡市のコウノトリ米などは、生息地保護と減農薬をセットにした高級ブランド米となってます。しっかり売れるお米ブランドがあって、それで農家さんが元気になって、農薬を減らしていったり、里の生き物と共存できるる農業が増えていったら、楽しいと思います。さらに食と自然環境を体験したい人たちが都市部からエコツーリズムで来るようにいなって、親子で、田んぼを手伝いながら生き物に触れて自然を感じてもらえたら嬉しい。それには特別に珍しい生き物ではなく、手で触って体感できる里に普通にいたドジョウやカエルが豊富にいる環境が大切なんです。