川島 範子
-Noriko Kawashima-
人物近影
ブリの森づくりプロジェクトとは?
平成22年の小田原市「環境(エコ)シティ推進プロジェクト」が、おだわら環境志民ネットワークの顧問である鈴木博晶さんをコーディネーターで開始され、そのときにできたのが、ブリの森づくりプロジェクトです。 以前の小田原の海では「ブリ」が良く獲れていました。定置網のブリ漁獲高が日本一となったこともありました。いまでもブリは水揚げされていますが、かつてほどではありません。生物多様な広葉樹の森はミネラル豊富な美味しい水を作り、河口にはプランクトンがたくさん集まります。それを求めて小魚が集まり、それを求めてブリなどの大型魚が回遊します。森は海の恋人、森里川海のつながっています。豊かな生態系の象徴として、また小田原発展の基礎となったブリの定置網漁を思い起こしてほしいという願いを込めて、ブリ森プロジェクトと名付けました。
活動としては年1回、「森であそぼう」というイベントを行っています。森林整備に携わっているさまざまな団体と協力しながら、森林・木材・竹材の利用PRを中心に、丸太切り・カンナ削り・竹切り・竹細工体験など、実際に木に触れて体験してもらうコーナーを設け、子どもたちには木材で遊べるようなスペースをつくり、木材のある空間で笑顔と楽しい声があふれるイベントです。
環境活動を始めたきっかけ
昔から、山に入る機会が多かったです。丹沢などを歩くと、下から上まで枝ばかりのヒノキなど、手入れ不足で真っ暗な森が多くて、そういった状況を何とかしたいと、ひとりで思っていました。そのうちに森林組合と出会い、森林技術者の大森さん(後のNPO法人 小田原山盛の会の初代会長)へ弟子入りしてチェーンソーなどを覚え、森林整備を学んでいくなかで「NPO法人 小田原山盛の会」を作っちゃおうとなり森林整備のフィールドを広げていきました。
そんななか、7-8年前からシカの被害が急激に増えてきたということで東京農工大学の先生をお招きして調査を始めました。そうして調べ始めると、どんどんシカが増えていって、「これは捕獲するっきゃない」という流れになり、今に至っています。シカの生息密度はこの数年で急上昇を遂げ、稜線の下層植生はどんどんなくなり、採食や♂ジカの角こすりや森の低木はどんどん枯れています。捕獲体制を何とか作れないかと思い、ワナ免許を取り、おだわらイノシカネットという捕獲団体を作りました。
小田原の森がピンチ!
実際に海の生き物が、どう推移しているのかなどの調査までは手が回っていないのが現状です。それほどに森林再生の活動のほうが大変すぎるのです。とくに鹿の被害が深刻です。ブリの森プロジェクトとして、鹿の有害獣駆除は行っていませんが、良好な生態系を維持するためにNPO法人おだわらイノシカネット・NPO法人 小田原山盛の会などをはじめとする他団体と活動のフィールドは常に繋がっていますので、一丸となって環境保全を行っています。
シカの被害によって森が失われ、植物の多様性が失われ、昆虫など生態系にも影響がおよんでいきます。林業被害もひどくなり、スギヒノキの苗木から、大径木まで、まともな木が育たなくなります。森は階層構造によって土壌流出が防がれていますが、樹木の階層構造や下草が失われると、雨水は直接地面をたたいて土壌流出をおこし、緑のダムとしてきれいな水を流す水源機能も失われていきます。土壌は数百年、数千年をかけて作られるものです。一度失われると樹木の育たない瓦礫の山となっていまいます。
森は私たちの生活の基礎である水を生むところです。森が失われれば、海の豊かさも失われます。シカの生息密度上昇は森と生態系と、私たちの豊かな生活のピンチなのです。幸いなことに小田原市とおだわらイノシカネットの共同事業「くくり罠塾」によって捕獲者の育成が行なわれ、徐々に捕獲体制ができつつあります。この動きを箱根山地全体に広げていきたいものです。
山が再起不能になる前に
シカの被害は全国的にみても各自治体で苦戦しています。何万頭も捕獲しているのに、森林再生が追いつかないところもあります。迅速に対策を打たないといけません。小田原市は近隣箱根山地の中では捕獲数でトップランナーではありますが、この問題は周辺含めて全体で対処していく必要があるので、どうコミュニティを広げていけるかが今後課題だと思っています。おだわら環境志民ネットワークは、徐々に会員が増え、勢いが出てきました。さまざまな活動をしている人たちがいろいろな視点で繋がっています。私個人としては今、シカ問題を優先課題として調査や捕獲の現場に出ずっぱりですが、これからも「森で遊ぼう!」や「木まつり」などのイベントを通して、小田原箱根の森里川海のつながりや、環境保全の大切さを伝え、情報発信を継続していけたらと思っています。